【携帯市場コラム】中古スマホ業界から見る「携帯電話の料金は高い?」
日本の携帯電話サービスは料金が高い。そういわれ続けてきた。80年代から本格化した通信分野の自由化も“通信サービスの価格を下げる”という大義名分のもとに進められてきた。
しかし、高い高いと言われながらも、携帯電話は急速に普及してきた。1996年から2002年までの7年間は、毎年契約数が1000万件ずつ増加している。その間、2000年には携帯電話(PHSを含む)の契約数が固定電話の契約数を上回った。
携帯電話業界の独り勝ち
そのころの携帯電話は独り勝ちだった。当時、ゲームソフト会社の経営者に話を聞くと、きまって「携帯電話が若者のお小遣いを吸い上げているのでゲームが売れない」という。レコード会社の社長に話を聞いても同じことをいう。なぜか若者をターゲットにしてきた産業は一様に市場が縮小傾向にあり、その原因を携帯電話のせいにしていたほどだ。
家庭用ゲームソフト市場は、90年代の半ばに「プレイステーション」や「セガサターン」が発売されて活気づき、1997年まで大きく拡大していく。が、98年からは大幅な減少に転じた。この大幅減は2003年まで続いた。この結果、2003年の市場規模は1997年の半分に迫るまでに縮小した。
ちなみに、スクウェアとエニックスが合併してスクウェア・エニックスが発足したのは2003年、セガとサミーが経営統合してセガサミーホールディングスが発足したのは2004年、バンダイとナムコが共同持ち株会社バンダイナムコホールディングスを設立して経営統合したのは2005年、タカラとトミーが合併してタカラトミーになったのは2006年・・・。長く続いた市場縮小は業界の再編にもつながった。
GAFAが台頭、モバイルがインフラとなった
もっとも、業界で語り伝えられた“携帯電話小遣い吸い上げ説”の真偽はあまりよくわからない。そもそも少子化の影響が日本経済の端々で強く意識され始めたころでもある。若者文化も変化していた。若者が酒を飲まなくなり始めていたし、車にも乗らなくなった。スキーや海外旅行にも行かなくなった。未婚率も上昇し、少子化にドライブがかかることが心配されていた。
半面で、携帯電話だけは大きく伸びていた。そんなイメージがあった。
それから20年。携帯電話の爆発的な普及で始まったモバイルネットワークの世界は、今やビジネスインフラにもなっている。モバイルネットワークとスマートフォンという“インフラ”上で展開されるビジネスも大きく育った。世界を席巻する巨大IT企業のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)なども、こうした“インフラ”に深くかかわることで現在の地位を築いた。
社会生活の上でもモバイルネットワークは重要なライフラインとなっている。2020年に世界を襲った新型コロナウイルス禍がソーシャルディスタンスを求める中で、モバイル端末はこれまでになく重要なコミュニケーションツールとなっている。社会のデジタル化はより加速し、遅れが指摘されてきた日本のDX(デジタル・トランスフォーメーション)もようやく始動したかにみえる。もはやモバイル端末の利用は選択の問題ではない段階にきている。使わなければ仕事も社会生活でも大きなハンデを背負うことにもなりかねない。そんなこともあり、他の公共料金と同様に利用料には引き下げ圧力はかかりやすそうだ。
政府は、いろいろな規制や政策を通じて携帯電話料金の引き下げを誘導してきた。その結果として、いまではMVNO(仮想移動体通信事業者)による格安通信サービスなども相次いで登場。中古の携帯電話(中古スマホ)やスマートフォンの市場も、まだ小さいとはいえ誰もが利用できるまでに整った。
世界に比べて2番目に安い通信料
それでも、総務省はまだ料金が高いと考えている。確かに高いといえば高い。とはいえ、30年近くも携帯電話を使ってきた感想としては、かなり安くなったとは思う。実際はどうなのだろうか。そもそも、何を持って高いとか安いとかを判断するべきなのだろうか。まさか主観ではないはずだ。
そこで国際比較のデータをみてみたが、基本料や通信容量などの設定など料金システムが違うために、各国での厳密な比較はかなり難しいことがわかる。時期によるばらつきも大きい。そこを大雑把にまとめると、東京の通信費はロンドン(英国)やパリ(フランス)よりは高めで推移している時期が多いものの、ニューヨーク(米国)やデュッセルドルフ(ドイツ)よりは安価になっている時期が多い。が、2020年の時点では前述5都市の中で東京が最も高いとのデータがある。大手キャリアの格安サービスが出そろった2021年は東京がロンドンに次いで2番目に安いとのデータもある。少なくとも、金額面ではダントツに高い時期が長らく続いている、ということはなさそうだ。 半面で、家計における通信費支出の対GDP(国内総生産)比ではおどくべき実情がみえる。これは通信費負担の重さをあらわすものだが、日本は2000年ごろまで英国やドイツと同レベル、米国やフランス、イタリアよりも低く推移していた。状況は2005年以降一変し、日本が突出して高くなっていく。2019年ごろには、欧米各国や韓国に比べ、1.5~2倍程度重い負担になっているとのデータもある。
これは、日本の家計、家計を構成する所得の推移で説明できる。OECD(経済協力開発機構)のデータなどによれば、90年代の前半までドルベースの日本の平均所得は米国や英国、フランス、ドイツよりも高かった。しかし、日本はその後の30年間ほぼ無成長だったために、2019年時点ではそれらのすべての国に追い抜かれた。ちなみに同年の米国の平均所得は日本の1.6倍にもなっている。
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さて、携帯電話の料金は高いのか。
料金の実額は世界的に低下傾向にあるが、他の先進国のように所得が増えていかない日本では負担感が低下しにくい。実はこの所得の問題こそ、通信費以上に悩ましいところなのだが。