【対談・ニューズドテックを語る】田中大貴×粟津浜一
ニューズドテックは2022年8月より、田中大貴氏を社外取締役に迎えました。田中氏は元フジテレビアナウンサーとして「すぽると!」(2001年4月2日から2016年4月2日までフジテレビ系列で放送されていた総合スポーツニュース番組)などの番組でキャスターとして活躍、バンクーバー五輪やリオデジャネイロ五輪の現地キャスターも務めました。その後、独立して「Inflight.Co.,Ltd」を設立。東京五輪ではIOCベニューのMCを担当しました。
これからはその経験を生かして田中氏にはニューズドテックでも活躍いただきたいと考えています。そこで今回は田中氏に、粟津社長と語り合ってもらいました。
「潮目が変わった」スポーツニュースの在り方
粟津 当社の社外取締役に就任いただき、ありがとうございます。
田中 こちらこそ、よろしくおねがいします。スマートフォン(スマホ)には特別な想いがありまして、お誘いの話をいただいたときには因縁めいたものを感じました。
フジテレビに『すぽると!』という総合スポーツニュース番組がありまして、私もキャスターのひとりとしてかかわっていました。その番組をやっているとき、2015年くらいだったでしょうか、「潮目が変わったな」と感じた時期があるんです。
ニューズドテック・ニュースリリースより
粟津 どういう変化だったんでしょうか。
田中 プロ野球の試合があるのは知っていても、仕事などでテレビ中継は観られないファンがたくさんいるわけです。番組は夜の11時台の放送だったので、ファンの方々は帰宅して気になっていた試合の結果を、番組で知ることになります。気になっていた試合の「答えあわせ」をしていただいていたわけです。
ところがスマホが急速に普及してくると、ファンは、いつでもどこでも情報にアクセスできるようになります。電車のなかでも中継を観ることができるし、好きなときに試合結果を簡単にチェックすることもできます。テレビでの答えあわせが必要ないわけです。
そうした状況を身近に感じていて、これからはスマホやタブレットといったデバイスが注目されていくと思っていました。その想いは、いまも変わっていません。そんなときにニューズドテックに声をかけていただき、デバイスにかかわる仕事ができるというので、とても喜んでいます。
Wi-Fiの環境が欠かせないスポーツ実況の現場
粟津 スポーツの実況でもスマホを役立てたりしているんですか。
田中 もちろんです。実況のときにはパソコンにスマホを2台、目の前に置いて情報収集しながら、目の前で起きていることを実況しています。スマホが2台なのは、回線に不都合があった場合に備えて、あえて違うキャリアのスマホを用意しているからです。
粟津 そこまで考えているんですね。スマホが情報収集の道具になると、実況する部屋の様子も変わってきませんか。
田中 変わりました。以前は、目の前の机の上は紙だらけでした。選手データやエピソードもまじえながら実況するので、その情報を集めた書類や辞書みたいな本が用意されていました。必要があると、スタッフが大慌てで紙をめくって調べるわけです。
それがいまは、パソコンやスマホで簡単に検索して調べることができます。調べるスピードは圧倒的に変わりましたし、情報量も増えたので、実況にも幅がでてきました。
粟津 スタッフの数も、そんなに要らなくなりますね。
田中 確実に減りましたね。実況をするスペースも、そんなに広くなくてよくなりました。その代わり、Wi-Fi環境だけは絶対不可欠な要素になりました。
司会業とスマホカルテの共通点は『察知すること』
粟津 要らなくなったものがある一方で、新しく不可欠になったものがある。しかし、情報だけで実況はできない気がします。
田中 もちろんです。ファンが期待しているストライクゾーンに話を投げ込めないと、魅力のある実況にはなりません。試合のどこにファンが注目し、期待しているのかを常に考えながら実況しています。
粟津 注目されている打者が、いつもと少しフォームが違うことを指摘してもらったりすると、ファンは実況を聴いていて楽しいですからね。
田中 そうですね。しかし、それを司会者が言ってしまうとダメなんです。察知していても、解説者に語ってもらうように仕向けます。そして返ってきた答えを引き取って、それを膨らまして盛り上げながら進行していきます。
粟津 意外ですね。それって、ニューズドテックとの共通点です。当社のスマホの故障予測診断アプリ「スマホカルテ」も、その察知する力なんです。スマホ内のデータを拾って、故障のサインを読み取り、それをユーザーに伝えます。それによって、「買い換えたほうがいいか」とか、最終判断するのはユーザーなんです。
スマホの故障劣化診断アプリ「スマホカルテ」:https://sumahokarute.com/
努力するビジネスマンはみな「アスリート」
田中 僕は、ニューズドテックという社名に、とても興味をもったんです。「新しい」のニューと「中古」のユーズド、そこにテクノロジーがはいっている。新しさと古さをテクノロジーで結びつける。新しさと前向きな姿勢を感じますね。
粟津 ありがとうございます。社名の意味を理解していただいていて、嬉しいです。
田中 これまで僕は、1500人くらいのアスリートにインタビューをさせてもらってきました。アスリートに共通するのは、前向きだということです。
その意味では、アスリートとはスポーツ選手だけではないと思っています。目標があって、理念があって、そこに向かって努力している。そういう人は、年齢性別に関係なく、みんなアスリートだと思います。
だから、粟津さんもアスリートだと思います。ご自分では、それを意識したことはありませんか。
粟津 そういうふうにアスリートを定義したことがなかったので、自分をアスリートだと意識したことはありません。しかし、いま田中さんが言われた定義なら、確かに自分はアスリートだと思います。名刺に「アスリート」って入れようかな(笑)。努力しているということなら、ビジネスマンは、みんなそうですよね。そうすると、ビジネスマンは誰でもアスリートですね。
田中 そうですね。僕が連載をもたせてもらっている『ナンバー (Number)』(文藝春秋)という雑誌があります。スポーツ雑誌なのでメインの読者はアスリートだと思われがちですが、じつは読者の大半はビジネスマンです。
アスリートの感動体験、成功体験を、明日の自分の努力、生きる力に替えているんだと思います。ビジネスマンはアスリートと自分をだぶらせている。
データ分析、利用に欠かせなくなったデバイス「スマホ・タブレット」
粟津 自分では気づいていなくても、心境はアスリートそのものなのでしょうね。だから、努力して結果をだすアスリートのストーリーに興奮してしまうのかもしれません。
田中 ロサンゼルズ・エンゼルスの大谷翔平選手が注目されていますが、僕も彼に取材するし、ロッカールームにも出入りしていました。そこで目にする大谷選手は、いつもタブレットを見ています。何をしているかといえば、自分や試合のデータをみながら分析しています。そういう努力が、試合で結果として表れているんです。
大谷選手もそうですが、努力するアスリートにとってもスマホやタブレットは不可欠の道具になってきているんです。
粟津 そうなんですか。それは興味のある話ですね。
田中 わかりやすい例が、今年の選抜高校野球大会です。地方予選で、公立高校だったり私立でも進学校といわれるところがめちゃくちゃ強いんです。僕の出身地である兵庫県は、ベスト4のうち3校が進学校の公立高校でした。いわゆる野球の強豪校は1校だけでした。
以前なら、強豪校でないとコーチ陣も充実していないので勝てない、といわれていました。それが、進学校が勝っているのは、スマホやタブレットでトレーニングアプリをチェックして選手が自発的に練習しているからです。一流のトレーニングを、どこでも都合のいい時間に受けられる。この変化が大きいと、僕は見ています。
粟津 スマホが高校野球の練習も変えてきているということですね。野球だけでなく、いろんな分野でスマホは変化を起こしています。
田中 データ利用もすすんでいます。大谷選手は右肘にセンサーを着けていて、それによって蓄積されるデータをスマホやタブレットに飛ばして、疲労度を測ったりしています。1球ごとに疲労度は違いますから、データ化することで、あと何球投げてしまうと故障につながると知らせてくれるわけです。それによって故障を未然に防ぐことができます。
粟津 まさにスマホカルテですよ。データ化することで、事前に故障を察知できます。バッテリーの状態がわからないと、いつダメになるかストレスを感じてしまいす。状態がわかれば、交換の時期を予測できて準備できますから、ストレスも感じなくてすみます。バッテリー状態のいいものを選ぶこともできます。
データを活用することで、長く使うことが可能になるわけです。これかスマホの値段は間違いなく高くなります。そうしたなかで、同じスマホを長く使いたいというニーズも確実に増えてくるはずです。そのニーズに、スマホカルテが応えることができます。
「やると決めた時、恐怖は剥がれ落ちていくもの」
粟津 田中さんは、フジテレビを中途退社していますよね。一流企業を、なぜ辞めたんですか。
田中 最初にトライすることに価値を感じるところが、僕にはあるんです。動画で情報発信するメディアとして、テレビは間違いなくトップの存在です。そこにインターネットで動画情報を発信する新興勢力が現れてきました。ライバル視するのは簡単ですが、テレビのノウハウをインターネットメディアで活かせれば、すごいことができるはずです。その架け橋にトライすることは意味があるし、ロマンがあると考えました。2015年くらいから考えていて、それで2018年に独立しましたんです。
粟津 新しいことをやりたかったのは、私も同じです。20代後半でメーカーの研究職を辞めて、誰もやったことがないという理由で、中古携帯のビジネスの会社を、仲間と起ち上げました。
ただ、社長になりたかったわけではないんですよ。私が社長になったのは、ジャンケンで負けたからです(笑)。それも電話ジャンケンで、電話口でグーとかチョキとか言って、それで負けたから、社長になっちゃった。だから、最初は社長として足が地に着いていなかったと思います。
田中 どこで、足が地に着くようになったんですか。
粟津 悪戦苦闘して、このままでは会社がつぶれる、と思ったときですかね。前職が研究職で経営の知識はないし、領収書も請求書もつくったことがない。だから無理だろうって、どこかで言い訳していたことに気づいたんです。
田中 経営者はマルチプレーヤーだと思います。領収書や請求書のつくりかたを知っていたほうがいいのかもせれませんけど、それだけではない。
粟津 自分ができないなら、誰かにやってもらえばいいと考えられるようになりました。最初からすべてのスタッフをそろえるのは難しいけれど、経営をチームでやればいいと気づいて、社長として足が地に着いた気がします。
田中 スポーツでの監督の立場と同じですね。誰をどのポジションに置くか、どのタイミングで動かすか、常に考えているのが監督です。社長も、その繰り返しかもしれません。
粟津 常に判断を求められる。その点では、監督と社長は同じかもしれません。判断して思い描いていた結果がでなければ、また違う判断する。その繰り返しです。請求書は書けなくても、私は判断はできていると思います。
田中 会社を辞めて自分で起業する、その一歩を踏み出すときって「怖さ」はありませんでしたか。
粟津 ありました。まったく初めてのことをやるわけですから、あのときの気持ちは「怖さ」でしたね。
田中 僕も独立するときに、「一歩踏み出す怖さ」がありました。それについては、プロボクシングの村田諒太選手に教えられたことがあります。
2017年5月に彼は、WBA世界ミドル級王座決定戦をハッサン・ヌダム・ヌジカムと闘って、敗れます。しかし同年10月、同じハッサン・ヌダム・ヌジカムと再戦し、TKO勝ちを収めてミドル級世界王者になっています。
その再戦試合前に、僕は村田選手に「世界戦で負けた相手とリターンマッチするって怖くないですか」と聞いたことがあります。同じ相手とやって再度負ければ、選手人生が終わります。怖いはずがないですよね。そのとき、村田選手が言ったんです。
「一歩踏み出すかどうか悩んでいるときが、いちばんの恐怖です。でも、一歩踏み出して『やる』と決めてからは、恐怖は剥がれ落ちていく。意外と、怖さはなくなっていきます」
それから半年後に僕が独立するときに、この村田選手の話を思い浮かべていました。
粟津 なるほど、私も実感としてわかります。同じ感覚をもった田中さんと、これから良い仕事ができそうです。
きょうは、ありがとうございました。これから、社外取締役として、よろしくねがいします。
田中 ありがとうございました。こちらこそ、よろしくおねがいします。
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